
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎
痒みを伴い慢性的に経過する皮膚炎で、根本には皮膚の生理学的異常(皮膚の乾燥とバリア機能異常)があり、そこへ様々な刺激やアレルギー反応が加わって生じると考えられています。
多くは乳幼児期から小児期に発症しますが、思春期や成人になってからも発症することがあります。他のアレルギー性疾患である気管支喘息やアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎を合併する場合があります。IgE抗体というアレルギーに関する抗体を作りやすい傾向があります。
繰り返し皮膚に炎症を生じ慢性に経過するため、治療は基本として対症療法となります。治療を継続し、症状がほぼないか、あっても軽微な状態で、日常生活に支障のない状態の維持を目指します。
薬物療法、皮膚の生理学的異常に対する外用療法・スキンケア、悪化因子の検索と対策の3点が基本となります。
アトピー性皮膚炎では、皮膚バリア機能と保湿因子が低下しているため、様々な刺激による皮膚の痒みを生じやすく、種々のアレルゲンが侵入しやすくなっています。保湿外用剤を使うことで、皮膚のバリア機能を回復し、アレルゲンの侵入予防につながります。
アトピー性皮膚炎治療で主に使用される塗り薬です。薬によって強さが異なり、皮膚炎の重症度や塗布する部位に応じて適切なステロイド外用剤を選択します。
ステロイドについては誤解や不安をお持ちの方もいらっしゃいます。長期にわたって連用した場合や、皮膚が薄くデリケートな部位に強いステロイドを使用し続けることによって、塗った場所に局所性の副作用がでることもありますが、その副作用のほとんどが一過性であり、正しい治療をすれば治るものです。適切に使用することで安全に使用していただくことができます。
アレルギーの免疫反応を抑える抗炎症作用により、赤みや痒みを抑える塗り薬です。炎症を抑える強さは、ミディアム〜ストロングクラスのステロイド外用剤と同程度とされています。
有効成分の分子量が大きいので、皮膚の状態の悪いところからは吸収されますが、正常な皮膚からはほとんど吸収されません。使いはじめの数日間は塗った部位のひりつきやほてりを感じることがありますが、継続して外用すると刺激感は次第になくなります。
ヤヌスキナーゼ(JAK)を阻害する塗り薬です。JAKは炎症を引き起こすシグナル伝達に重要な役割を果たしており、それを阻害することによって炎症や痒みを抑制し、アトピー性皮膚炎の症状を改善します。
炎症を抑える強さは、ストロングクラスのステロイド外用剤とほぼ同程度とされています。
ホスホジエステラーゼ4(PDE4)を阻害する塗り薬です。PDE4は多くの免疫細胞に存在する酵素で、炎症を引き起こす物質の産生に関わっています。このPDE4の働きを抑えることで、炎症を引き起こす物質の産生を少なくして、アトピー性皮膚炎の症状を改善します。
アトピー性皮膚炎の痒みに対して最もよく使われる飲み薬です。ヒスタミンを抑えることによって、痒みなどのアレルギー症状を抑制します。
免疫抑制剤に分類される飲み薬です。サイトカインの発生を低下させ免疫抑制に働く特徴があり、塗り薬や抗ヒスタミン剤を使用しても改善しなかった痒みが治ります。他の治療で十分な効果が得られない症状が重い方が対象となります。長期使用での安全性が確立していないため、症状が軽快したら一般的な治療に切り替える必要があります。
急激に悪化した場合や非常に症状が重い場合に限って、早急に症状を改善させるために使用されることがあります。しかし、長期間の内服には様々な全身性副作用があることから、ステロイド内服によってアトピー性皮膚炎を長期間コントロールする治療法は推奨されていません。
ヤヌスキナーゼ(JAK)を阻害する飲み薬です。JAKは炎症を引き起こすシグナル伝達に重要な役割を果たしており、それを阻害することによって炎症や痒みを抑制し、アトピー性皮膚炎の症状を改善します。服用開始早期から痒みや湿疹といった自覚症状の改善が期待できます。
外用療法でコントロールが難しい中等症から重症のアトピー性皮膚炎の方への適用があります。定期的に血液検査、感染症検査、胸部X線検査等が必要です。
JAK1、JAK2を阻害します。リウマチなどで長年の使用経験があり円形脱毛症にも適用があります。適応年齢は15歳以上。
JAK1を阻害します。リウマチなどで長年の使用経験があります。適応年齢は12歳以上。
JAK1を阻害します。適応年齢は12歳以上。デュピクセントに匹敵する効果です。早期に痒みが減少し、ニキビなどの副作用の発現率が低いといわれます。
生物学的製剤の注射薬です。今までの治療法で十分な効果が得られないアトピー性皮膚炎の方に適用があります。経口JAK阻害薬に比べて免疫抑制などの副作用が少なく、感染症やX線検査が必須ではないなどのメリットがあります。
デュピクセント、ミチーガは自宅で自己注射が可能なため、頻回にクリニックを受診するのが難しい方にもお勧めです。
アトピー性皮膚炎ではIL-4、IL-13をはじめとするサイトカインという物質が皮膚の炎症を引き起こし、皮膚のバリア機能低下や痒みを誘発します。この薬はIL-4とIL-13を抑えることで、アトピー性皮膚炎の主な要因である炎症、痒み、バリア機能低下に対する効果が期待できます。
適応年齢は生後6ヶ月以上。成人では、初回は600mg(注射2本)を皮下投与し、2回目以降は300mg(注射1本)を2週間間隔で投与します。
アトピー性皮膚炎の痒みを誘発する物質であるIL-31の働きをブロックすることによって痒みを抑えます。適応年齢は13歳以上。1回60mg(注射1本)を4週間間隔で皮下投与します。
アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚ではIL-13が過剰に発現しており、IL-13の発現量は重症度と相関しています。この薬はIL-13を阻害することで効果を発揮します。
適応年齢は15歳以上。初回は600mg(注射4本)を皮下投与し、2回目以降は300mg(注射2本)を2週間間隔で投与します。
とびひ(伝染性膿痂疹)は細菌による皮膚の感染症です。ブドウ球菌や溶血性連鎖球菌(溶連菌と略します)などが原因菌です。接触によってうつって、火事の飛び火のように広がることから“とびひ”と言われます。
あせも・虫刺され・湿疹などをひっかいたり、転んでできた傷に感染を起してとびひになります。アトピ-性皮膚炎では皮膚のバリア機能が低下していて伝染性膿痂疹(とびひ)が合併しやすくなります。
伝染性膿痂疹(とびひ)はおおきく水疱性膿疱疹と痂皮性膿疱疹に分類されます。
黄色ブドウ球菌の感染によるものです。0~6歳までの乳幼児に多く夏におこります。虫刺されや湿疹部などに感染がおこると、大小さまざまな水疱(すいほう)ができ、淡い紅斑を伴います。
水疱はかんたんに破れてびらんとなり、辺縁を縁取るように拡大していきます。また、最初の水疱から遠く離れたところにも、あらたな病変が生じてどんどん増えていきます。湿疹に合併していると強いかゆみがあります。
主にA群β溶血性レンサ球菌(化膿レンサ球菌)によっておこります。年齢や季節に関係なく発症します。
最初は顔面や手などで局所の小水疱や膿疱として始まり、次に小水疱や膿疱から漏れ出た滲出液(じくじくした液)が厚い黄色痂皮(かひ)(かさぶた)へと変わっていきます。その後局所に多発したり、からだ全身に広がっていきます。炎症の症状が強く、発熱・のどの痛み・リンパ節の腫脹などの全身症状を伴います。
治療がうまくいっていないアトピー性皮膚炎のお子様におこりやすいです。
治療しても伝染性膿痂疹(とびひ)が治らない、または悪化している場合はMRSA(Methicillin‐Resistant Staphylococcus Aureus:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が原因菌となっていることが考えられます。MRSAとは、黄色ブドウ球菌の中で抗生物質に耐性を持つ(薬が効かないもしくは効きにくくなる状態)菌です。
皮膚科では、初診時にMRSAによる伝染性膿痂疹(とびひ)も念頭にいれて細菌培養検査をおこなうことにしています。
一般には抗菌薬の内服をおこないますが、範囲が限局性であれば塗り薬のみでも効くことがあります。
とびひの部位を洗い流すことはとても大切です。細菌を含んだ滲出液(じくじくした液)や痂皮(かさぶた)を物理的に洗い流すことになるからです。石けん・ボディーソープを使って患部をやさしく洗い、シャワー浴や掛け湯などで十分にすすぎます。消毒液は使いません。
ステロイド外用剤単独で治療すると、伝染性膿痂疹(とびひ)はむしろ悪化することがおおくて危険です。
水疱性膿疱疹では、セフェム系、ペニシリン系、あるいはニューマクロライド系抗菌剤を内服します。状態をみながら4~5日間内服します。
痂皮性膿疱疹膿疱疹ではペニシリン系薬を第一選択としますが、黄色ブドウ球菌にも感受性のある抗菌薬を選びます。治療開始後3日経っても軽快しなければ、MRSA感染を考慮して細菌培養を行い、抗菌剤の効き具合を予想してから変更します。
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